ねえ、くまちやん、くまちやん、「五十音表」と「あいうえお表」の違ひつて、何?
え゙?!
ボーッと生きてんぢやねーよ!!
――今こそすべての日本国民に問ひます。「『五十音表』と『あいうえお表』の違ひつて何?」
「五十音表」と「あいうえお表」の違ひも知らずに、やれ「あかさたなはまやらわ」とか、やれ「お風呂に表を貼つて覚えよう」などと言つてゐる日本人の何と多いことか。しかしチヱコちやんは知つてゐます。
「五十音表」と「あいうえお表」の違ひは――
五十マス全部埋まつてゐるのが「五十音表」!
皆さんが子供の頃、以下の三つの表のうち、どれに一番近いもので学びましたか。(前二者の「ん」の配置は、「わ」の左隣の事もあります)
2016年に「amazon.co.jpで入手可能な五十音表・あいうえお表」を調査した事があります(詳細は「みんなのかなづかひ 創刊準備號」に掲載。本当は全数買取調査したいところでしたが、個人で無理なく出来る範囲での調査なので、予算の関係上あきらめました)。「伝統的な配置」は皆無、残りは「現代仮名遣いに基づく配置の五十音表」と「穴あき五十音表」でしたが、およそ半々(しかも後者が僅かに優勢)でした。
私の個人的な見解としては、ワ行は現代仮名遣いで廃字となった「ゐ」「ゑ」も含め「わゐうゑを」とするのが理想ですが、現代の小学校のカリキュラムに合せて子供を教育するにしても、「わいうえを」ならともかく、「わ□を□ん」は如何なものか、と、ちよつと気になります。「を」を「をおおおおお」と伸ばして言つてみればすぐわかる通り、「を」はウ段ではなくオ段ですから。
Q これは「児童教育に旧仮名遣を復活させよ」との主張ですか。旧仮名遣の押し付けは止めてください。
A よくそんな風に早とちりされますが、それとは別の話です。「現代仮名遣いで教育するとしても、せめて、『を』をウ段やイ段に配置した『あいうえお表』は、『国語教育教材』としてはなるべく避けて欲しい」。これが私の主張です。それ以外の部分も「五十マス全部埋める」「現代仮名遣いに出てこないとしても、『ゐ』『ゑ』の存在には触れる」のが理想であると私は信じます。
Q 「五十音表」と「あいうえお表」って同じもの?
A 「五十音表」は「あいうえお表」ですが、「あいうえお表」のすべてが「五十音表」ではありません。五十マス全部埋めてないものをどうして「五十音表」と呼べるのですか。それにワ行を「わ□を□ん」にしてるのは五十音表として論外です!
Q ヤ行の「い」「え」やワ行の「い」「う」「え」はア行とダブるので省略すれば、ワ行に「わ□を□ん」とバランス良く配置出来るし、それでいいのでは。
A どの段に入れるかも重要です。元素周期表で、「水素とヘリウムが出っ張るので、表がなるべく四角くなる様に配置する」なんて事をやりますか。
元素周期表
単なる「元素の羅列表」
五十音表も同じです。それでももし「ただのひらがなの羅列で十分」とおっしゃるなら、こんな配置にしてはいかがですか。
単なる「ひらがなの羅列表」
Q ヤ行のい・えやワ行のい・う・えは要りません。ア行のだけで十分です。
A 五十音表は単なる「ひらがな一覧表」ではなく、母音と子音の組合せ表(例外あり)や用言の活用表も兼ねた表です。音の上ではダブる字も含めて五十マス全部埋めるのが理想です。
燃やす・燃ゆる・燃える
植わる・植うる・植え(ゑ)る
が同じヤ行やワ行の関係である事がすぐわかるのは、五十マスきちんと埋めた五十音表です。「消ゆ」「燃ゆ」など現代でも現役で使用される文語の活用がありますし、後に古文の授業でヤ行の上二段・下二段活用やワ行の下二段活用を学ぶ時にも、子供の頃にきちんと学んだ五十音表をそのまま活かせます。
活用 | 行 | 語幹 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
上二 | ヤ | 老 | い | い | ゆ | ゆる | ゆれ | いよ |
下二 | ヤ | 燃 | え | え | ゆ | ゆる | ゆれ | えよ |
下二 | ワ | 植 | ゑ | ゑ | う | うる | うれ | ゑよ |
Q 現代仮名遣いでは「ゐ」「ゑ」の字が出て来ないので、あいうえお表には不要です。
A 小学生でも百人一首や犬棒かるたで遊ぶなら「ゐ」「ゑ」の文字に親しむ事になりますし(ただし最近は「ゐ」「ゑ」「京」のない犬棒かるたも市販されてるらしいですが……)、中学生になれば古文の授業で「ゐ」「ゑ」が出て来るので、最初から正しい配置で覚えた方が、学び直す手間がないのでは。「現在使用されない文字を子供に見せたら混乱する」なんて意見もありますが、なあに、混乱しやすいのはむしろ大人の方で、子供の適応能力をなめてはいけません。私のこれまでの経験からして、「ゐ」「ゑ」の文字を「難しい」と言ったり、子供に「難しいでしょ?」と言ったりする(事で、子供に「難しい」と刷り込む)のは大抵大人で、子供は「何これ! 見たことない! 面白い!」と大抵は面白がるものです(私の子供の頃も同じく)。ちなみに、タイでは現在ほとんど使用されないタイ語の二つの文字(コー・クアット[瓶のコー]、コー・コン[人のコー])を子供もきちんと習ってます。日本語の「ゐ」「ゑ」もきっと同じ事が出来ます。
Q 住所録やソフトウェアキーボードも「やいゆえよ」「わゐうゑを」の配置にすると、「どの『い』に入れるか」「画面に収めにくい」問題があります。
A 正しい五十音表の配置が特に重要なのは「教育用の表」です。それ以外では、用途や画面の制約等で一部崩した方が良いものもあるかもしれません。
Q 「ん」がア行の並びに配置されるのはスルーですか。
A オ段の下など、ア~オ段とは関係ない場所に配置するのが理想ですが、それが難しくても、別枠にするなど、ア~オ段とは関係ない事がわかりやすい配置にする工夫が出来るかも知れません。
Q うちにあって子供達がとても気に入ってる「アンパンマンのあいうえお表」は、「を」がウ段にあります。捨てるべきですか。
A 新たに表を選ぶ場合ではなく、既にある場合は、うまく工夫する事を提案します。一つの方法として、日本地図の「沖縄」の配置がきっと参考になります。「を」「ん」の周囲に、マステ等を利用して枠で囲む事で、「スペースの都合でこの場所に移動した」事を表現できます。そして、適切な機会があれば、百人一首などを例に、「ゐ」「ゑ」の存在について説明できるかもしれません。