明治38(1905)年初版(大倉書店・服部書店)の「吾輩ハ猫デアル」と、昭和36(1961)年版(新潮文庫)の「吾輩は猫である」です。
両方とも現代文で口語文ですが、表記がだいぶ異なります。どこが違ふのか、探してみてください。
最近は、「旧字旧かな・新字新かな」と「文語体・口語体」を混同し、「文語体の作品が旧字旧かなで書かれて、現代口語文の作品は戦前も新字新かなで書かれた」と云ふ誤解が一部にあるやうですが、戦前は口語文も旧字旧かなで書かれた事が、こゝからおわかりでせう。
「でも、中学や高校の教科書や文庫では、戦前の文豪の作品も新字新かなで書かれてるのでは?」とお思ひの方もいらつしやるかも知れませんが、これは、元々旧字旧かなで書かれてゐた作品を、(「口語文は現代仮名遣で読み書きさせる」と云ふ文部科学省の教育方針や、戦後教育世代の便宜を図る目的で)新字新かなに書き換へてゐるからです。漢字制限の方針から、一部の漢字をひらがなに書き換へる事さへあります。
中学や高校の教科書では「文語文は歴史的仮名遣で書いて、口語文は現代仮名遣で書く」方針になつてゐますが、これは戦後の国語改革で新たに生まれたイデオロギーであり、戦前はどちらも歴史的仮名遣で書かれてゐたのです。