おまけ:お嬢様言葉の研究

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 「正かなづかひ 理論と實踐 創刊號」で、お嬢様言葉を取り入れた創作少女小説「大好きよ!おねえさま」を書いたのですが、「お嬢様言葉とは何ぞや」の解説の為に、以前書いてあつたこのページを引つ張り出してきました。

 なほ、このページは制作途上で、半放置状態です。ごめんなさい。この資料の信憑性にはあまり期待しないでください。後述の資料等、他の資料から裏を取ることをおすすめします。私は関東に住んでゐるものの、東京山の手に住んでゐたことはありません。誤りを見付けた方も、是非教えてくださいませ。

 「お嬢さまことば速修講座」(加藤 ゑみ子 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン発行、ISBN: 4887591233)といふ本は、お嬢様言葉に関し大変参考になります。私のサイトの情報よりも、もっと詳しくて信頼性がありますから、ご興味のある方は、むしろそちらをお読みになることをおすすめ致します。

 また、お嬢様言葉の起源、歴史については、「ヴァーチャル日本語 役割語の謎」(金水 敏 著、岩波書店発行、ISBN: 400006827X)といふ本もおすすめです。また、「モダンガール論」(斎藤 美奈子 著、文春文庫、ISBN: 4167656876)といふ本は、昔のお嬢様の歴史的背景を知るのに役立つ本です。

お嬢様言葉、ご存じかしら?

 このページをお読みのあなた、お嬢様言葉つてご存じでして? 「山の手の女言葉」のことよ。

 ねえ知つてるでせう――昔の翻訳物の文学とか戦前の少女小説でよく使はれてるでせう、「よろしくつてよ」とか――今の東京の山の手の方でもまだ使ってらして?

 でもあたくし、今でも使つてる人なんて本当に知りませんの。あたくしの知らないうちに消滅しちまつたとしたら、そりゃあ悲しいつたらないわ。

 だけどまあ――何て素敵な響きなんでしょう。今はどうなのか、是非教へてくださいまし。

 ――まあ嫌だわ、あなた誤解しちやあ。あたくし、これ本気で書いてなくつてよ。山の手の女言葉の例としてそれつぽく書いてみたわけ。

お嬢様言葉の起源を探る

 先の項ではお見苦しいところをお見せしましてごめんあそば……もとい、ごめんなさい。

 しかし、お嬢様言葉というのがどんなものなのか復習できたでせうか。現在身近に使用してゐる人がほとんど絶滅してしまつたにもかかはらず、小説やテレビドラマ、漫画などでは生き残つてゐるためか、皆さんにもなぜか馴染み深いものだと思ひます。

 この山の手のお嬢様言葉の起源は、江戸時代の女言葉、一説には、江戸の山の手の芸者言葉あたりが起源の一つだなどと言はれてゐます。もし、それが真実だとすると、どうして芸者言葉がお嬢様言葉に影響を与へたのでしょうか。まだ確証は取れていませんが、興味深い説を他の方からお聞きしました。

 明治の「鹿鳴館」時代の大臣職には、芸者衆を奥さんにもらつた人が多くいたとのことです。そのため、この時代に奥さんに収まつた芸者衆が、お嬢様言葉の生みの親及び育ての親となったのではないか、といふものです。

 その真偽はともかくとして、お嬢様言葉というものは女学校を媒体として、明治時代から昭和初期にかけて一気に普及し、全盛期を迎へました。そして、それが文学の形で広く世に知られるきつかけとなったのは、少女小説の世界においてでせう。特に大正九年(1920)発行、吉屋信子著「花物語」は有名です。(みやび)やかなお嬢様言葉と、花をモチーフに綴られるセンチメンタルでリリカルな物語は、東京に限らず当時の多くの少女たちの心をときめかせるものでありました。

 一方、このようなお嬢様たちは「よくつてよ」などと日本語には無い会話をしてゐる、とか、下層階級の言葉や芸者言葉が起源の下品な言葉遣ひだ、などと知識層から批判されてゐたさうです。

 戦後、このやうなお嬢様言葉は次第に廃れてしまひました。そしてほとんど死語と化してしまふ……と思ひきや、文学や漫画やアニメ等の世界では「金持ちのお嬢様らしさをステレオタイプ的に表現する」ための役割語としてのみ、しぶとく生き残つて今日に至ります。

お嬢様言葉の基本

 お嬢様言葉のわかりやすい特徴である、語尾に関して言ふなら、「ことのて」の結びがキーワードです。

 「まあ素敵ですこと!」とか「お願ひできますこと?」の「こと」。

 「何がございますの?」や「さうですの」の「の」。

 「遊びにいらして」「よろしくつて?」の「て」。「こと」よりくだけた表現。

 なほ、お嬢様言葉は叮嚀語が基本ですが、友人同士の会話ではややくだけた表現になります。

お嬢様言葉の語彙

 一部、厳密には江戸言葉の語彙も含まれてゐますが、お嬢様言葉は江戸言葉が由来ですのであへて載せてゐます。

わたくし 私。
~遊ばす 丁寧語。「ごめん遊ばせ」
あら 驚きの言葉。「あらあら、こんなに服を汚しちまつて」[参考]女性の手紙の結尾の「あらあらかしこ」とは違ふ。十分に意を尽くさず(粗粗)恐れ入ります(畏)、の意。
いいこと いいですか。「今度あなたのお家に遊びに行つてもいいこと?」「いいこと、よそのお宅ではお行儀よくなさい」
お~ 叮嚀語。「おズボン」「おりぼん」「お花」「おつもり」「およしなさい」
くだすつた くださつた。
ご~ 叮嚀語。「ご本」
~こと ~ですね。「あらあら、随分大きなケーキですこと」
~さま 叮嚀語。「お母様」「ごもつともさま」
~さん 叮嚀語。「人参さん」「おばかさん」「お茶目さん」(あるいは「茶目子さん」)
しちまふ してしまふ。村岡花子の訳による「赤毛のアン」のシリーズでの頻出語なので驚く人が多いかも知れないが、お嬢様言葉としては下品ではない?
しちやあ 「しては」のなまり。
随分ねえ ひどい事を表す表現。「わたくしの事を点取り虫だなんて、随分ねえ」
~ちやま 親愛感を込めた叮嚀語。「伯母ちやま」
なくつて? ないですか?(疑問形)
なくつてよ ないのよ
まあ 驚きの言葉。「~嫌だわ」
まし 「ませ」のなまり。叮嚀な依頼。
モチ 「もちろん」を縮めた語。女学生の流行り言葉。「一緒に行きませう」「モチ(もちろん)よ」
よくつてよ、よろしくつてよ いいですよ
~わ ~です。~だ。決意や主張、驚き等を表す。「私待つわ」「まあ嫌だわ」[参考]元々の仮名遣は、助詞の「は」と同じ「は」だが、戦前も「わ」と書かれる方が優勢だつた。
~わねえ ~ですね。「よく来てくだすつたわねえ」

参考文献

「お嬢様ことば速習講座」(加藤ゑみ子著、ディスカバー21発行)

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